第20回 新コミックエッセイプチ大賞 結果発表 第20回 新コミックエッセイプチ大賞 結果発表

第20回 新コミックエッセイプチ大賞 結果発表


受賞作品

今回もさまざまな経験を描いた力作をご応募いただき、ありがとうございました!
応募総数約100通の作品のなかから選ばれた、第20回「新コミックエッセイプチ大賞」受賞作を発表します。


  • なかざわ とも
    入賞
    『祖母の記憶』
    なかざわ とも
    講評
    認知症である祖母の少女時代の瑞々しい話を、孫である作者が描いたコミックエッセイ。「認知症の祖母」という身近な題材が、作者の人柄ならではの視点で丁寧に描かれている。現代と過去を行き来しながら、一人の人間が生きてきた歳月を感じさせる構成が見事。表情の描き方・見せ場の作り方など演出力も高く、祖母の記憶風景と温かな絵柄がマッチしていて引き込まれる。共感性と独自性を持っていて、心を動かされた。どのように一冊に仕上げるかは十分な検討が必要だが、多くの人の胸を打つような作品を期待したい。

  • タソ
    入賞
    『ズボラな私と、小さな森の同居生活 ~コケリウムはじめました~』
    タソ
    講評
    緑の溢れる部屋に憧れながらもサボテンすら枯らしてしまうというズボラな作者が、小さな容器の中に自然の風景を再現する「コケリウム」に挑戦するコミックエッセイ。水彩風の柔らかなタッチがテーマとマッチしており、いつかは植物を育ててみたいと思っている読者から共感を集めそう。コケリウムの魅力を丁寧に描こうとする姿勢も伝わる。ニッチなテーマではあるものの、「コケと共に成長する自分」といった詩情的な切り口や、作者独自の心情描写、実用的な要素など、様々な工夫を試みることで読者にアプローチしたい。

第 20回 新コミックエッセイプチ大賞 1次審査通過作品

審査会にて1次審査を通過した全作品の講評を掲載します。


  • 『休職日記』
    はみ
    講評
    「休職」という共感性の高いテーマを悲壮感なく前向きに描いた作品。イラストに雰囲気があり、すらすらと読み進めることができた。一方で淡々としている印象もあり、作品を通して伝えたい部分をもう少し強調するなどのメリハリがほしいところ。メンタルヘルスをテーマにしたコミックエッセイは多いので、そのなかで差別化するためには作者独特の心情描写や表現が必要になる。より表現力を磨いていってほしい。
  • 『はじめてのアメリカ』
    なかざわ とも
    講評
    作者の10代の頃の思い出の一片を鮮やかに描いた作品。作者ならではの着眼点があり、丁寧に描かれる心情描写と柔らかなイラストがマッチしていて、美しい読後感を与えている。一方、とても個人的かつ断片的な体験にフォーカスしているため、ここから1冊の書籍に膨らませるのは難しいと感じた。より共感性が高く、視野の広いテーマを作者独自の視点で描くことができれば、自然とターゲットは広がっていくのではないだろうか。
  • 『山を走る』
    ゆら薫
    講評
    「トレラン」と呼ばれる、山を走るスポーツの経験を躍動感とともに描いた作品。インパクトのある絵柄が山を勢いよく駆け下りる描写にマッチしていて、読者を引き込む力がある。ただしトレランに馴染みのない読者にとってはやや入り込みづらい印象もあり、たとえば山の景色や美味しいご飯など、読者が広く興味を持てる入口を用意したい。また鮮やかな描写が求められるテーマに対して、青ベースの色味が合っているのかは検討の余地がある。
  • 『ふらっと!灘五郷酒造めぐり』
    ヨシダリ
    講評
    作者の酒造めぐりの体験を描いた、お酒・旅好きに刺さりそうなコミックエッセイ。描き込みが丁寧で説明も分かりやすく、作者の日本酒に対する情熱を感じる。一方で、文字量が多く全体的に解説に終始してしまっている点が惜しい。人との会話を取り入れながら、作者自身の感情が揺れ動く描写を入れられると、作者の人柄も分かり、コミックエッセイとしてより面白く読み応えのある作品になるのではないか。
  • 『晴れた日の青空みたいに』
    藤野 みか
    講評
    自閉症の息子とともに歩んだ体験を、母親の視点から丁寧に描いた作品。診断が下るまでの心情が分かりやすく描かれていて、今現在同じ状況で悩んでいる当事者の支えになるような内容になっていると感じた。青くんがどのように成長したのか続きが気になるという意見も多かった。一方で、少し時間が経過した経験であり、かつ類書が少なからず存在するテーマでもあるため、どのように差別化を図るのかは検討する必要がある。
  • 『育児の合間の私時間 ~ものづくりでリフレッシュできた話~』
    夏生 つな
    講評
    育児の合間に小さなものづくりに挑戦することで、自分の時間を取り戻していく姿を描くコミックエッセイ。子育て経験のある読者には共感性が高いテーマが、可愛らしい絵柄とマッチしていて「これなら自分もできるかも」という親近感が湧く。一つ一つのエピソードをもう少し掘り下げて、画期的なアイデアや新しい発見など、作者独自の視点を入れられると、より強く読者に求められる作品になるのではないか。

編集長総評


第20回「新コミックエッセイプチ大賞」総評
第20回「新コミックエッセイプチ大賞」を開催しました。

リニューアル前の「コミックエッセイプチ大賞」と合わせて通算49回目の開催となる今回は、前回に続きシステム障害にともなうWEB応募の対応の変更でご迷惑をおかけいたしましたが、郵送応募とWEB応募ともにたくさんのご応募をいただきました。ありがとうございます。また次回からはWEB応募を専用のフォームからご応募いただけるようになりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

今回は応募作品のなかから、『祖母の記憶』と『ズボラな私と、小さな森の同居生活~コケリウムはじめました~』の2作品が入賞となりました。おめでとうございます。

『祖母の記憶』の作者・なかざわ ともさんと、『ズボラな私と、小さな森の同居生活~コケリウムはじめました~』の作者・タソさんは、実はお二人とも私が講師を務めていた朝日カルチャーセンターのコミックエッセイ実践講座(現在は終了)を受講してくださっていました。もちろんプチ大賞の選考会ではそのことを他の編集部員には伏せたまま選考を行っていたので、受賞が決まったときは驚きつつ、個人的にもとても嬉しかったです。

『祖母の記憶』と『ズボラな私と、小さな森の同居生活~コケリウムはじめました~』は、テーマも作風もまったく異なる作品ですが、どちらも「ごく個人的な話」を描いている点は共通しています。コミックエッセイの新人賞に応募された作品を読んでいると、「とても面白い(興味深い)内容だけど、個人的な話すぎて書籍として世に出すほどには共感を得られないんじゃないか」という議論がよく起こります。なので、作品が「ごく個人的な話」を描いていることは、必ずしも良いことだけではないのですが、この2作品については作者の私的な経験を広く読者に読んでもらえるという期待感があったということではないかと思います。
この受賞作から発展してどんな作品が生まれるのか、今からとても楽しみです。

前回の総評で書いたように、「コミックエッセイプチ大賞」は20年近くにわたって数多くの新人作家さんの登竜門となってきましたし、今後も多くの才能を発掘する場として、長く続けていければと思います。ですが、昨今はますます作品のテーマも描き手も多様化しているため、コミックエッセイプチ大賞だけではその才能を見つけきれていないことを実感しています。
そうした状況をふまえて、KADOKAWAコミックエッセイ編集部では現在、プチ大賞以外にも複数の新人賞を実施しています。改めて以下にまとめます。

コミックエッセイプチ大賞
猫コミック新人賞
シリーズ立ち行かないわたしたち新人賞 ※不定期開催
キャラクターコミック新人賞 ※キトラ編集部との共同開催

これはと思う新人賞があれば、ぜひご応募をお待ちしています。

さて、新コミックエッセイプチ大賞は年2回の頻度で開催していますが、日頃から「編集者に直接、作品を読んでもらう機会がほしい」というリクエストをいただく機会が多々あります。2025年11月24日(月・祝)に東京ビッグサイトで開催されるコミティア154では、コミックエッセイ編集部として「出張編集部」を行い、作品の持ち込みを受け付ける予定です。直接、編集者のフィードバックを受けたいという方は、ぜひご参加いただければと思います。

次回の新コミックエッセイプチ大賞の応募締切は2026年2月末日です。詳細はコミックエッセイ劇場のプチ大賞ページでご確認いただけると幸いです。
引き続きたくさんのご応募を心よりお待ちしております。

コミックエッセイ編集部
編集長 山﨑 旬