第16回 新コミックエッセイプチ大賞 結果発表


受賞作品

今回も多数のご応募ありがとうございました!
応募総数140通を超える作品のなかから選ばれた受賞作を発表します。


  • 蒔
    入賞
    『ネロノーツ』
    講評
    主人公「ネロ」の何てことのない日常と、そのなかで感じた思いを綴った一作。新しいようで懐かしさも感じる個性的な世界観と魅力的なイラストが評価を集めた。現状は1ページ完結の形式だが、話の内容をさらに掘り下げたページ数のあるストーリー形式を読んでみたいと強く思わされた。ページ数を使ってより丁寧に心情を描くことで、共感度が高い作品になる可能性を充分に秘めている。軸の通ったテーマ設定や、コマ割りの仕方など、ブラッシュアップすべき点は多いが、描き手としての期待感が上回る。
  • なおたろー
    入賞
    『うつだと思ったら生理が原因でした』
    なおたろー
    講評
    PMDDという生理の症状が原因でうつになってしまう体験を綴るコミックエッセイ。「自分の不調も生理が原因なのでは?」と読者の興味をひく、わかりやすいタイトル付けが良かった。作者が感じた不安や恐怖のリアルな描き方も、同じような体験をした人には共感度が高いが、エピソードが小学生時代から始まるせいか、前半部分がやや冗長であるようにも感じた。原因がわかった「その後」に重点を置いて描くことで、よりテーマに特化した構成になり、また実用的な要素を加えることで読み応えのある1冊になりそう。
  • 高尾 まこと
    入賞
    『私はこうして医者を辞めました』
    高尾 まこと
    講評
    美大を希望しながらも、医学部に進学し医師として働いていた作者が、仕事を辞めて漫画家を目指すまでを描くコミックエッセイ。医者という仕事にやりがいを見つけられず重い責任に苦しむなか、元同期の自殺をきっかけに人生の転機が訪れるというリアリティが響く。長期間にわたるエピソードながら、重要なシーンを丁寧に描いていて、見せ所を意識しているのがわかる。また読みやすくまとめる構成力も評価を集めた。応募作はきれいに完結しているため、医師の経験を活かした新しい作品をぜひ練り上げていってほしい。
  • 小村 ことみ
    入賞
    『100頭の馬に愛をこめて 一般女性乗馬日記』
    小村 ことみ
    講評
    趣味として乗馬を始めた作者が様々な馬と出会い、癒されていくコミックエッセイ。馬のイラストがきれいで、作者の馬への愛と、個性豊かな一頭一頭の魅力が伝わってきた。前回のプチ大賞で1次審査を通過した作品だが、講評で指摘した点も改善されていて、ニッチな題材ながら、より読者の間口を広げた読みやすい作品になっている。馬好きを満足させる知識や情報を盛り込むことで、より多くの読者に刺さる作品にしていけるのではないか。

第16回 新コミックエッセイプチ大賞 1次審査通過作品

審査会にて1次審査を通過した全作品の講評を掲載します。


  • 『エフォートレスに行かんとす』
    ゆら薫
    講評
    作品から伝わる教養や、個性と雰囲気のあるイラストに高いポテンシャルを感じる。一方で伝えたいことがフワッとしていて、現状ではまだ「オシャレなコミック」という印象が強い。共感や感動など、作品を読んだ読者の心をどう動かしたいのかを意識して、コンセプトやテーマを明確にしていくことで、刺さる作品になるのではないか。
  • 『母になってもスキを生きる』
    タソ
    講評
    テーマは共感度が高い。コマ割りなどの技術面も及第点で読みやすい。ただ、今回の応募作のようなコミックエッセイは既にたくさん描かれているため、独自の切り口が必要になる。たとえばファッションをテーマにするのであれば、「母親でも楽しめるオシャレ」のように、掘り下げていかないと他作品との差別化を図ることは難しいのではないか。読者が真似したり、何か行動を起こしたくなるような作品を読みたい。
  • 『限界日和』
    西野みや子
    講評
    なかなか経験できないような体験を描いた作品だが、興味をひかれた。話の運びが上手で、先を読んでみたいと思わせる描き方になっている。ただエピソード自体は非常にニッチなため、お金を払って読みたくなるような作品にできるかが疑問。また応募作品の最後はクスっと笑える形で終わっているものの、読者が単純に面白い話として読んでいいのか、楽しみ方に悩む作品でもあった。田舎暮らし、地方移住に興味のある層は多いので、オリジナリティのあるエピソードを積み重ねていけば、多くの人に読まれる作品になる可能性はある。
  • 『あの頃の夢追い人たちへ』
    ショーコサン
    講評
    絵に個性があり、作者の魅力になっている。夢に破れたことのある人には共感度の高い内容だろう。ただ、夢を追って破れていくまでがわりと淡々と描かれているせいか、読み手の感情を揺さぶるようなシーンがなかった点が残念。物語の山場を作ったり、意識的に見せコマを作ったりすることで、ストーリーに強弱をつけられると良いのではないか。また、大きな決断をしたときの感情を丁寧に描いてほしい。
  • 『空想食レポ日記』
    ポプ担
    講評
    イラストが可愛く印象的だった。本作は食べ物がメインテーマだが、他の題材の作品もぜひ読んでみたい。応募作品でいえば、読者に「美味しそう」「食べてみたい」と思わせるような、食べ物をテーマにした作品には必須の要素がやや欠けているように思った。また、現実とSFが融合した世界観に入り込むまでに少し戸惑う部分があり、世界観の作り込みにも課題が残る。
  • 『どこ行った、女子力』
    とりのことり
    講評
    作風がコミックエッセイに向いていて、色々なジャンルの作品を描けそう。テーマ自体の共感度は高いが、作者が変わりたいと思ったきっかけが薄いので、読者が感情移入できないまま話が進んでしまっている点がもったいなかった。作者の境遇や葛藤をもっと深く、丁寧に描くことができれば、共感度もグッと上がって良くなりそう。
  • 『生き辛かったアラサー会社員が、銭湯で副業をはじめるまで』
    かまどちゃん
    講評
    銭湯で副業するという体験は、単純にすごく興味をひかれた。イラストもテーマの雰囲気に合っていて読みやすい。ただ、せっかくの稀有な経験にも関わらず、銭湯で働くなかでの具体的なエピソードに乏しく、評価が難しかった。きっと色々な体験談がありそうなので、もっとそこを描いてほしい。またテンポは良いが、作者が描きたい内容が散らかっている印象があるので、テーマを絞って描いてほしい。

編集長総評


第16回「新コミックエッセイプチ大賞」総評
第16回「新コミックエッセイプチ大賞」を開催しました。
リニューアル前の「コミックエッセイプチ大賞」と合わせて通算45回目の開催となる今回も、郵送応募とWEB応募の両方でたくさんのご応募をいただきました。ありがとうございます。
応募総数約140作品のなかから、『ネロノーツ』『うつだと思ったら生理が原因でした』『私はこうして医者を辞めました』『100頭の馬に愛をこめて 一般女性乗馬日記』が入賞となりました。おめでとうございます。
入賞作が4作品出るのは、新コミックエッセイプチ大賞にリニューアルしてからはおそらく初めてのことです。テーマも作風もまったく異なる4作品ですが、いずれも将来性を感じさせる作品でした。受賞作はコミックエッセイ劇場で読むことができます。編集部の講評と合わせてご覧いただければ幸いです。

描いた作品をすぐにSNSにアップして読んでもらうことができて、そこで話題になれば編集部から声がかかるという環境が整っている昨今では、プチ大賞への応募作品数は少しずつ減ってきています。それでも、これまで受賞作が出なかったことはなく、また今でもこの賞の受賞をきっかけにして毎年のようにコミックエッセイ編集部から新人作家のデビュー作が刊行されています。
新コミックエッセイプチ大賞はまた、4ページ以上の原稿であれば未完結作品でも応募できる、とてもハードルの低い漫画賞です。何気ない日常を綴った応募作も多く、今回入賞した『ネロノーツ』もそうした作品でした。ページ数やテーマに限らず、入賞の可能性がある漫画賞だと思います。
一方で、ハードルの低い賞だからこそ、受賞後、書籍化までに長い時間をかけて作品を作り直していくことも少なくありません。たとえば、2023年10月に『精神科病棟の青春 あるいは高校時代の特別な1年間について』という4作目の著書を刊行するもつおさんは、プチ大賞を受賞してからデビュー作を刊行するまでに丸3年がかかりました。作品の内容はもちろん、作者の方の状況や執筆ペースによって書籍化までの道程は様々です。今回受賞した4作品も、それぞれのペースで書籍化を目指していただければと思っています。

新コミックエッセイプチ大賞は年2回の頻度で開催していますが、日頃から「編集者に直接、作品を読んでもらう機会がほしい」というリクエストをいただいています。そうした声を受けて、2023年12月3日(日)に東京ビッグサイトで開催されるコミティア146にて、コミックエッセイ編集部として「出張編集部」で作品の持ち込みを受け付けることが決まりました。ぜひこの機会にたくさんの持ち込みをお待ちしています。
また、次回の新コミックエッセイプチ大賞の応募締切は2024年2月末日です。郵送での応募に加えて、引き続きWEB投稿を受け付けます。詳細はコミックエッセイ劇場のプチ大賞ページでご確認いただけると幸いです。
引き続きたくさんのご応募を心よりお待ちしております。

コミックエッセイ編集部
編集長 山﨑 旬