第15回 新コミックエッセイプチ大賞 結果発表 第15回 新コミックエッセイプチ大賞 結果発表

第15回 新コミックエッセイプチ大賞 結果発表


受賞作品

今回も多数のご応募ありがとうございました!
応募総数200通を超える作品のなかから選ばれた受賞作を発表します。


  • とーや あきこ
    入賞
    『「勝ち」にとらわれた私』
    とーや あきこ
    講評
    娘の希望で将棋教室に通わせることになった母親が、娘を思うがあまり自分自身が「勝ち」にとらわれるようになってしまう姿と、その葛藤を描いた一作。どんな家庭でも起こりそうな親子のすれ違いを、共感度高く描けている。8コマ構成の使い方も上手く、最後までハラハラしながら読めた。今作は将棋教室が舞台だが、将棋を別の習い事、あるいは受験など他のテーマに置き換えても面白くなりそう。ぜひ色々なテーマを描けるようになってほしい。
  • モチダ ちひろ
    入賞
    『三十代 ピンピンころりが目標です』
    モチダ ちひろ
    講評
    「健康に死にたい!」を目標に、30代の作者が無理なく痩せるダイエットを実践するコミックエッセイ。うまくまとめられたストーリーとテンポの良さが評価を集めた。ダイエットを決意するまでの過程の見せ方は整理する必要があるものの、漠然と「ダイエットしたい」という人が読んでも共感できる内容に仕上がっている。実用的な情報をさらに盛り込むことで、より読者が真似しやすい作品になりそうな、期待値の高い作品だった。

第15回 新コミックエッセイプチ大賞 1次審査通過作品

審査会にて1次審査を通過した全作品の講評を掲載します。


  • 『POPな気持ちで整形した話』
    たぁち
    講評
    テーマは面白い。レポ漫画としてわかりやすい作品になっているが、整形をする前後の心の動きなど、内面的にもう一歩踏み込むことができると、より共感性が得られる作品になるのではないか。画力にはまだまだ向上の余地があり、またテーマと合った絵柄という印象ではなかった。
  • 『いきあたりばったり馬に乗ったり』
    小村ことみ
    講評
    飽き性の作者が乗馬という趣味を見つけてハマっていく様子を描いた作品で、絵が丁寧なのも手伝って馬の魅力が伝わってきた。ただし、テーマを「乗馬」に絞ると、どうしても読み手が限られてしまい、一冊にしたときに広く共感を得られるかどうかが悩ましい。ニッチなテーマを乗り越えるような独自の魅力が欲しい。
  • 『さっちゃんはね フレネミーっていうんだほんとはね』
    花森あめ子
    講評
    高校生の主人公が、転校先でフレネミーの被害に遭ってしまう話。絵の雰囲気がとても良く、共感を得られやすいテーマでもある。一方で、作品を通して読者に何を伝えたいのかがいまいち不透明な印象もあった。「伝えたいこと」を意識して作品作りをしてほしい。
  • 『ノルディックウォーキング日記』
    毎日、深呼吸
    講評
    絵柄が魅力的で、審査会では興味を惹かれる編集者が多かった。テーマも新鮮味があり、かつわかりやすく描けている。ただし、文字が多いのもあり、漫画というよりはイラストエッセイのような印象だった。コマ割りや構成など、もう少し漫画として魅せる技術を磨いていってほしい。
  • 『蛙化現象になった話』
    どてらいぬ
    講評
    好きだった相手が自分に好意を持った瞬間に気持ち悪いと感じてしまう「蛙化現象」を描く作品。蛙化現象自体は旬なテーマであり興味を惹かれる。漫画として読みやすく描けており、今後の展開が気になる作品だったが、応募作品だけではページ数の短さからそれ以上の評価に結びつかなかった。
  • 『週末手芸再履修』
    菜っぱ
    講評
    手芸というテーマはコミックエッセイにマッチしていて、構成が丁寧で好感が持てる。また好きなものを他人に伝えようとする姿勢が良い。一方で、作者の抱いているワクワク感といった内面の部分がダイレクトに伝わってこないのが残念。また作中の手芸作品をもっと魅力的に見せる描き方を磨いてほしい。
  • 『助六寿司探索掌編/鯛焼き探索掌編』
    平野由子
    講評
    好きなものに対する作者の熱意が伝わる作品だった。助六とたい焼きの具体的な紹介部分が漫画ではなくイラストと文章になっているのは少し物足りない。その部分こそ漫画として魅力的に描けるかどうかが大事なので、ブラッシュアップしていってほしい。
  • 『懲役2年10ヵ月の実刑になった旦那を待つことにした話』
    待人まち子
    講評
    薬物所持で逮捕された夫を「待つ」ことに決めた妻の話。当事者にしか描けない、貴重な体験談ではあるが、「残された側」の大変さや心情にもう少しリアルさと深みがほしいところ。難しいテーマであるからこそ、エピソードの伝え方、絵柄や語り口のテンションによって読み心地はガラッと変わるので、最適な表現を模索してほしい。
  • 『文鳥初心者にっき』
    蓬田にいち
    講評
    文鳥の絵がとても可愛く、特徴をよくとらえて描かれていた。内容そのものの魅力はやや物足りない部分があり、例えばギャグ寄りに振るなどの工夫が必要かもしれない。また漫画としての読みやすさを整えることで、もっと魅力的な作品になるのではないか。
  • 『保育士さいおの日常』
    さいおなお
    講評
    エピソードの面白さとサービス精神のある演出が良かった。一方で、保育士をテーマにしたコミックエッセイは他にもあり、類似作品と差別化する方法は検討するべきだろう。現状の作品でもSNSなどでは楽しく読めるが、一冊の本にするにはテーマを絞ったり、キャラクターを魅力的にするなど工夫が必要になる。

編集長総評


第15回「新コミックエッセイプチ大賞」総評
第15回「新コミックエッセイプチ大賞」を開催しました。
リニューアル前の「コミックエッセイプチ大賞」と合わせて通算44回目の開催となる今回も、郵送応募とWEB応募の両方でたくさんのご応募をいただきました。ありがとうございます。
応募総数約180作品のなかから、『「勝ち」にとらわれた私』『三十代 ピンピンころりが目標です』が入賞となりました。おめでとうございます。

『「勝ち」にとらわれた私』は、母と娘の親子関係を描いた作品です。
小学3年生の娘を将棋教室に通わせることになった母親は、最初は教育熱心なママ友に戸惑っていたにもかかわらず、いつしか将棋をしている娘本人よりも勝ち負けにこだわり、そのせいで娘に対して厳しく接するようになっていきます。
こうした親子関係の変化は多くの人にとって思い当たる部分があると思います。将棋教室を別の習い事に置き換えても成立する、いわば普遍的な展開と言えるかもしれません。子どもへの行き過ぎた言動をとってしまう母親の姿はヒリヒリする読み心地があり、とてもシンプルなイラストながら力のある作品に仕上がっていました。
シンプルなイラスト、また1ページを等分の8コマで描く形式といえば、『消えたママ友』『赤い隣人』など数々の著作がある野原広子さんの作品を彷彿とさせる部分もありました。等分8コマ形式は、普段漫画をあまり読まない読者でも読みやすく、4コマずつ縦に並べればスマホでの読書にも適しているという特徴があります。野原広子さんの作品だけでなく、コミックエッセイ編集部が2023年2月に立ち上げた「立ち行かないわたしたち」というシリーズでも、この形式を採用しています。「立ち行かないわたしたち」はセミフィクション(コミックエッセイの形式と文法を用いて描くフィクション)を中心とするシリーズですが、電子書籍の市場がますます拡大していることもあり、今後もこの形式の作品は増えていくことが予想されます。
作者のとーやあきこさんは、コミティアで行った出張編集部に原稿を持ち込んでくださり、その場での編集者のアドバイスを受けて作品をブラッシュアップして応募されたそうです。コミックエッセイ編集部では今後も定期的にコミティアでの出張編集部を予定していますので、プチ大賞への応募を検討している方はぜひご参加いただければと思います。

『三十代 ピンピンころりが目標です』は、コミックエッセイの定番とも言えるダイエットがテーマですが、30代の主人公が「健康に死にたい」という動機でダイエットを始める導入が印象的でした。
ダイエット、片付け、料理、節約といったテーマを描く実用コミックエッセイは、目標を達成するための方法ももちろんですが、作者(主人公)の人柄や動機、それを実践することになったきっかけといった部分に読者が共感できるか否かが重要だと思います。「(まだ30代だけど)健康に死にたい」という主人公の本音に対して、審査会では編集者から「わかる」という声が多数あがっていました。
ダイエットコミックエッセイはたくさんありますが、コミックエッセイ編集部から刊行された作品では、何といってもわたなべぽんさんの『スリム美人の生活習慣を真似したら 1年間で30キロ痩せました』が有名です。『スリ真似』刊行当時、その衝撃的なプロローグに一気に心を鷲掴みにされたのを覚えています。コミックエッセイ劇場の単行本情報ページからプロローグ部分の試し読みができるので、ご興味のある方はぜひ読んでみていただければと思います。
ちなみに『スリ真似』シリーズのわたなべぽんさんはその後、『ダメな自分を認めたら部屋がキレイになりました』では片付けに、『やめてみた。 本当に必要なものが見えてくる、暮らし方・考え方』では暮らしや思考の整理に挑戦しています。実用コミックエッセイの方法論や描き方は別のテーマの実用コミックエッセイにも応用できる場合があります。何か実用的なコミックエッセイを描こうとしているけれどうまくいかない方、他に何を描いたらいいのか悩んでいる方は、視点を変えてみるのもいいかもしれません。

今回、受賞されたお二人には、賞金10万円と、編集部より担当が付いて書籍化に向けて動き出すことになります。すてきな作品が完成することを期待しています。
次回の新コミックエッセイプチ大賞でも引き続きWEB投稿を受け付けます。詳細はコミックエッセイ劇場のプチ大賞ページでご確認いただけると幸いです。
引き続きたくさんのご応募を心よりお待ちしております。

コミックエッセイ編集部
編集長 山﨑 旬