第19回 新コミックエッセイプチ大賞 結果発表


受賞作品

今回もさまざまな経験を描いた力作をご応募いただき、ありがとうございました!
コミックエッセイ編集部による厳正な審査の結果、選ばれた受賞作品をご紹介します!


  • 益田 そよ
    入賞
    将軍が死んだ 〜父の遺産を相続した日〜
    益田 そよ
    講評
    「将軍」のように厳格な父親の老いを機に、初めての遺産相続に向き合う家族を描いたコミックエッセイ。「父の死」から始まり子ども時代の回想につなげていく展開が見事で、冒頭から物語に引き込まれた。昔気質で強権的な振る舞いをしてきた父親の姿。そんな父親に対してそれぞれ複雑な思いを持つ家族の姿は、どれも等身大でリアルに描かれており、感情移入しやすく人物造形に好感が持てた。家族愛に溢れる感動的なシーンをはじめ、全体を通して構成や演出の完成度が高い作品だった。一方で、遺産相続の具体的な手続きについては詳細な説明があるわけではないため、遺産相続の経験がない読者にはわかりづらい部分も多々あり、エピソードと実務的な描写の両立には課題が残る。「家族の柱であった父の死」あるいは「父の終活」といったテーマを据えることで、読者がより共感できたり、カタルシスが生まれる作品になるのではないか。

第19回 新コミックエッセイプチ大賞 1次審査通過作品

審査会にて1次審査を通過した全作品の講評を掲載します。


  • 『緩和病棟事務、死について考える』
    あや
    講評
    テーマによくマッチした絵柄と物語の構成の良さが好印象だった。8コマ構成のコマ割りも読みやすく、場面を感動的に伝える演出力が光る作品だった。病院を舞台にしたエッセイは既にたくさんあるので、医療事務だからこそ体験できるエピソードを盛り込むなど作品にオリジナリティを出せるかどうかが課題か。
  • 『産後メンタルなめてました』
    ゆぢ
    講評
    テンポよく読ませる工夫がされており、産後うつになるまでのメンタルの変化が丁寧に描かれていた。多くの共感を得られる内容に仕上がっているが、このテーマだけでは一冊の書籍として手に取らせるのは難しいか。例えば、母親としてあるいは女性としての大変さをテーマに据えることでターゲット層が広がるのではないか。
  • 『ご飯も宿も神頼み! 青春18きっぷサバイバルツアー(関東編)』
    タソ
    講評
    読みやすく、明るく楽しい雰囲気がよく伝わる原稿に仕上がっている点が好印象だった。一方で、絵が完成され過ぎておりやや個性に欠けるので、人物に好感が持てるよう絵柄を調整することで旅エッセイの魅力が増すのではないか。また、導入だけでなくその先の展開まで読みたかった、という意見も多かった。
  • 『おうちコラボカフェやってみた』
    こしこ
    講評
    推し活への熱量の高さが伝わる内容で、テンポのよい作品。可愛らしく好感の持てる絵柄で、感情移入しながら楽しく読み進められた。一方、主人公の人物造形が作品を読むうえで気にかかるという声もあり、また「オタクあるある」をテーマにした書籍が数多くある中で、この作品ならではの突き抜けた個性や差別化が必要であると感じた。
  • 『わたしは推しと並びたい 〜アラフォーから始める女磨き〜 』
    おぐらあんこ
    講評
    コマ割りや演出に安定感のある作品。様々なテーマで作品を描けそうな熱量の高さも好印象であった。一方、「推し」のためにダイエットを始めるという動機づけが読者を狭めるのではないかという懸念があり、また肝心のダイエット方法の独自性は描かれていないため未知数。さらに、絵柄の線に荒いところがあり、読みづらさを感じるという意見もあった。
  • 『フランスに住んでるオタクの日常 』
    うどん
    講評
    人物の造形が活き活きと描かれ、著者自らの体験に様々な引き出しがありそうな点にポテンシャルを感じた。また、漫画としても読みやすく構成や演出力の高い作品である。一方、語学学校という狭いコミュニティの内容に終始し、情報量が少ない点やエピソードの深堀が弱い点が惜しい。海外文化ものは定番のジャンルでもあるため、テーマやエピソードの精査をすると、より読者を惹きつける作品になるのではないか。
  • 『雷鳥ちゃん狩猟日記 』
    雷鳥(原作)/満月亭さかな(作画)
    講評
    画力が高く、コマ割りの工夫で迫力を出そうと試みている点で好印象だった。一方で主人公のキャラクターデザインが、エッセイとして狩猟の体験を読みたい層とマッチしているかは検討の余地がある。少女キャラにこだわらず、渋い雰囲気に振り切ったデザインに挑戦してみてもいいのではないか。

編集長総評


第19回「新コミックエッセイプチ大賞」総評
第19回「新コミックエッセイプチ大賞」を開催しました。
リニューアル前の「コミックエッセイプチ大賞」と合わせて通算48回目の開催となる今回は、前回に続きシステム障害にともなうWEB応募の対応の変更でご迷惑をおかけいたしましたが、郵送応募とWEB応募ともにたくさんのご応募をいただきました。ありがとうございます。

応募作品のなかから、『将軍が死んだ 〜父の遺産を相続した日〜』が入賞となりました。おめでとうございます。
受賞作品は、「将軍」のように厳格な父親と、そんな父親と複雑な思いで向き合う家族のコミックエッセイです。遺産相続という実務が物語の軸になっていますが、そこで描かれているのは、誰しもが良くも悪くも特別な感情を抱く家族というものの、ひとつの側面であるように思えました。この受賞作から発展してどんな作品が生まれるのか、今からとても楽しみです。

コミックエッセイはもともと、漫画とエッセイの中間にあるような、とても小さく狭いジャンル・形式です。『ダーリンは外国人』や『日本人の知らない日本語』、あるいはたかぎなおこさんの作品のようなヒット作品によって、少しずつコミックエッセイという言葉も知られるようになり、さらにSNSによって爆発的に描き手が増えたことで、今ではたくさんの出版社・編集部がコミックエッセイを刊行するようになりました。そんななかでコミックエッセイプチ大賞は、コミックエッセイという言葉が生まれて間もない頃に始まり、以降20年近くにわたって数多くの新人作家さんの登竜門となってきました。今後も多くの才能を発掘する場として、長く続けていければと思います。

さて、新コミックエッセイプチ大賞は年2回の頻度で開催していますが、日頃から「編集者に直接、作品を読んでもらう機会がほしい」というリクエストをいただく機会が多々あります。2025年6月1日(日)に東京ビッグサイトで開催されるコミティア152では、コミックエッセイ編集部として「出張編集部」を行い、作品の持ち込みを受け付ける予定です。直接、編集者のフィードバックを受けたいという方は、ぜひご参加いただければと思います。

次回の新コミックエッセイプチ大賞の応募締切は2025年8月末日です。郵送での応募に加えて、引き続き臨時応募フォームにてWEB投稿を受け付けます。詳細はコミックエッセイ劇場のX及びプチ大賞ページでご確認いただけると幸いです。
引き続きたくさんのご応募を心よりお待ちしております。

コミックエッセイ編集部
編集長 山﨑 旬