第17回 新コミックエッセイプチ大賞 結果発表


受賞作品

今回も多数のご応募ありがとうございました!
応募総数180通を超える作品のなかから選ばれた受賞作を発表します。


  • すずしろ
    入賞
    『アレルギーっ子の食べたい!を叶えるおやつの話 ~乳・卵不使用イラストレシピつき~』
    すずしろ
    講評
    乳成分アレルギーを持つ子どものために、手作りおやつに挑戦するエピソードを描いたコミックエッセイ&レシピ集。テーマだけでなく絵柄からも温かみを感じる作品で、前向きにアレルギーと向き合う作者や家族の姿勢に好感が持てる。写真とイラストを組み合わせたレシピページも丁寧でよくできているが、料理中の様子をより具体的に描いたり、漫画のなかで味の感想をしっかり表現したりすることで、さらに読みごたえのある作品になるのではないか。
  • 原作:渋沢萬一 漫画:青嶋七里
    入賞
    『児童精神科のカルテ』
    原作:渋沢萬一 漫画:青嶋七里
    講評
    児童精神科医が子どもの心について解説するコミックエッセイ。応募作はプロローグ的な内容のため、どのようなエピソードが展開されるのか未知数な部分はあるものの、イラストが色使いも含めてポップでかわいらしく、子どもに対して丁寧に向き合う作者の雰囲気とマッチしている。短いページ数でワンテーマを説明する構成力も見事。今後は実際に経験した印象的なエピソードを通じて、専門家ならではの知見をわかりやすく伝える作品を読んでみたい。
  • けいこんぶ
    入賞
    『父と母の生前葬』
    けいこんぶ
    講評
    4人兄妹が集まり、両親の生前葬を行った経験を描いた家族コミックエッセイ。絵柄と着彩が抜群に良く、抜け感やシュールな味わいがあるからか、「生前葬」というやや重く感じるテーマでも読みやすかった。状況説明だけでなく心情もしっかり表現できているため、日常生活での些細な出来事を自身のユニークな視点で切り取り、感性豊かに描くことができそう。応募作は雰囲気が先行しているため、構成を整理し、エピソードの強度を磨いてほしい。

第17回 新コミックエッセイプチ大賞 1次審査通過作品

審査会にて1次審査を通過した全作品の講評を掲載します。


  • 『株で図書館を建てる』
    ますだ
    講評
    昨今の盛り上がりもあり投資という題材は需要が高く、著者自身の実際の投資成功体験を描くことができるという意味では貴重な作品。ただテーマが投資そのものと、図書館を建てることに分散しているのはややもったいないか。冒頭で描いている、「株知識ゼロから本業を超える利益をあげる」という流れは、読者のハードルを下げつつ関心を引く掴みとして良かったので、株投資の実用的な要素をより詳細に描いてほしい。
  • 『あの日の彼女』
    徳永彩
    講評
    温かみを感じる作品で、とても綺麗にまとめられている。表情や背景の描き込みが丁寧なのも良く、登場人物たちの心情を絵からしっかりと読み取ることができた。文字やコマは最小限で無駄がなく、テンポよく読み進められた。断片的な「心が温まる話」だけで1冊の本をつくるのは難しいため、軸となるテーマや、連作やオムニバスになるような工夫は必要。
  • 『私の思い入れグルメ』
    峯鳥子
    講評
    それぞれのグルメに関する回想シーンの描き方が面白く、クスっと笑いながら読むことができた。一方で、グルメ漫画に不可欠な料理のイラストがあまり美味しそうに見えなかったこと、料理シーンや料理過程を漫画で見られなかったことは残念。セリフとモノローグも多いので、文字ではなく絵で見せることを意識すると良くなるのではないか。
  • 『男性と結婚すると思ってたアラサー女が、女性を好きになりました。』
    たこ
    講評
    漫画としての完成度は高い。ただし、やや説明的なのと、自身の経験だからこそ描けるパーソナルな内容に対して、作品を通して読者に伝えたいことが不透明な印象が残る。女性同士の恋愛、ノンセクシャルといったテーマを多くの人に読んでもらうためには、主人公である作者を思わず応援したくなるような描写や、性的指向の違いにかかわらず読者の共感を呼ぶような丁寧な心情描写など、さらなるブラッシュアップを期待したい。
  • 『一人暮らしでもネコが飼いたい!』
    むに
    講評
    絵とコマ割りに安定感があって読みやすい作品だった。構成にやや難があり、猫を飼いたいというきっかけから、猫との暮らしが始まるまでの序章のようなストーリーが冗長に感じられた。その猫ならではの性格や特徴、何よりも「猫と暮らすことの良さ」が描かれていなかったのが残念。もっと猫をかわいらしく描いてほしいという意見もあった。
  • 『もふもふな16年と9ヶ月』
    中村ありす
    講評
    老犬との向き合い方、飼い主としての愛情が丁寧に描かれていた。作者にとってつらい経験だったことはよく伝わるが、ペットロスをテーマにする場合、「悲しみからどう乗り越えたのか」も読みたい。また愛犬の死から話が始まるため、読み手を選んでしまうのではという意見も出た。コメディタッチの絵柄が、犬のかわいさとシリアスなテーマを表現するうえで相性がいいのかどうかも懸念点。
  • 『断乳とは「愛」なのかもしれない』
    ジャッキー遠藤
    講評
    画力が高く、テンポよく読みやすい構成にもなっている。作者の抱えている悩みや細かな感情もうまく表現されていた。「断乳」というテーマ自体は、長い育児の中でも期間が限られる内容であるため、これを広げて1冊にするには難しい部分もあるが、母親の感じる孤独が丁寧に描けそうなので、別のテーマでも作品を読んでみたいと思えるポテンシャルを感じた。
  • 『声が出せない女の子 ~場面緘黙症だった8年~』
    今じんこ
    講評
    作者は既に書籍デビューしている描き手ということもあり、描き方は習熟されていて、自分の表現方法をしっかりつかんでいる。とてもパーソナルなエピソードで、作者にとって人生における大事な時期のことを作品として描くことへの意気込みが伝わってくるようだった。一方で、出来事を時系列順に並べた構成は淡々とした印象があり、作者の感情的な部分がダイレクトに伝わってこなかったため、もう少し読者を感情移入させる描写がほしいところ。場面緘黙症という言葉とは出会う機会がなくても、人前で喋ることが苦手な人、またはそうした人が身近にいてその人の思いを知りたい人は多いのではないか。そういった広い読者にも届くようなブラッシュアップを期待したい。

編集長総評


第17回「新コミックエッセイプチ大賞」総評
第17回「新コミックエッセイプチ大賞」を開催しました。
リニューアル前の「コミックエッセイプチ大賞」と合わせて通算46回目の開催となる今回も、郵送応募とWEB応募の両方でたくさんのご応募をいただきました。ありがとうございます。
応募総数約180作品のなかから、『アレルギーっ子の食べたい!を叶えるおやつの話~乳・卵不使用イラストレシピつき~』『児童精神科のカルテ』『父と母の生前葬』が入賞となりました。おめでとうございます。
テーマも作風も大きく異なる3作品ですが、いずれも丁寧に描かれていること、将来性を感じさせる作品であることが共通していました。受賞作はコミックエッセイ劇場で読むことができます。編集部の講評と合わせてご覧いただければ幸いです。
ご応募いただいた際のエントリーシートを見ると、プチ大賞を受賞してから書籍化までの流れについて詳しく知りたいという方が多くいらっしゃいました。そこで今回は、第15回新コミックエッセイプチ大賞を『三十代 ピンピンころりが目標です』という作品で受賞したモチダちひろさんに、受賞から書籍化までの道のりについてのコミックエッセイをご寄稿いただくことにしました。コミックエッセイ劇場のトップページから作品を読むことができるので、ぜひご覧いただければと思います。
モチダちひろさんはプチ大賞の受賞後、2024年2月に『カンタンなのに家族に人気のお魚おうちごはん』という料理コミックエッセイを刊行されました。簡単で美味しそうなレシピの数々はもちろん、とにかく魚に関する知識や情報と色鮮やかなイラストがたくさん詰め込まれていて、読んでいるだけでも楽しくなる内容の充実した一冊です。こちらの本は、発売後約1ヵ月で重版が決定し、2024年4月現在3刷と順調に版を重ねています。
また、モチダさんと同じ第15回新コミックエッセイプチ大賞を『「勝ち」にとらわれた私』で受賞したとーや あきこさんは、2024年5月に『合格にとらわれた私 母親たちの中学受験』というセミフィクションを、「シリーズ立ち行かないわたしたち」から刊行します。昨今激化する中学受験を舞台に親子の葛藤を描く内容で、こちらも読み応えのある一冊になりそうです。
このように、コミックエッセイプチ大賞を受賞された作家さんのデビューや活躍が増えてきているので、今後もプチ大賞からの大ヒット作を目指していければと思います。
新コミックエッセイプチ大賞は年2回の頻度で開催していますが、日頃から「編集者に直接、作品を読んでもらう機会がほしい」というリクエストをいただいています。そうした声を受けて、2024年5月26日(日)に東京ビッグサイトで開催されるコミティア148にて、コミックエッセイ編集部として「出張編集部」で作品の持ち込みを受け付けることが決まりました。ぜひこの機会にたくさんの持ち込みをお待ちしています。出張編集部への参加が決まりましたらコミックエッセイ劇場や公式Xでお知らせいたします。
次回の新コミックエッセイプチ大賞の応募締切は2024年8月末日です。郵送での応募に加えて、引き続きWEB投稿を受け付けます。詳細はコミックエッセイ劇場のプチ大賞ページでご確認いただけると幸いです。
引き続きたくさんのご応募を心よりお待ちしております。

コミックエッセイ編集部
編集長 山﨑 旬